coniro

通りすがりの記録

第一部 完

 いつもと同じ様にジャイアンに追われて家に逃げ帰ってきたのび太はいつもの様に言った。
「あれ貸してよ。ほら、いつか使ったやつ。けんかに強くなるの」
 でもドラえもんの答えはいつもと違った。
「ひとりでできないけんかならするな!」


 うかない表情のドラえもん
「どうしたんだよドラえもん
 ドラえもんは打ち明けた。
「こないだから………言おう言おうと思ってたが……」

「帰る? 未来の世界へ!」 
 明日の朝にドラえもんが未来の世界へ帰ってしまう。
「なんとかして!」
泣きつくのび太にママとパパは言った。
「ドラちゃんにはドラちゃんの都合があるのよ。わがまま言わないで」
「人にたよってばかりいてはいつまでたっても一人前にはなれんぞ。男らしくあきらめろ」

 
 最後の夜、のび太ドラえもんと同じ布団に入って寝る。
 でも、ふたりとも眠れない。
 そこで“眠らなくても疲れない薬”を飲み、月が綺麗な夜の散歩にでかける事にした。

 
のび太くん…本当にだいじょうぶかい?」
「何が?」

「できることなら…帰りたくないんだ。きみのことが心配で心配で……。
 ひとりで宿題やれる? ジャイアンスネ夫に意地悪されてもやり返してやれる?」
「ばかにすんな! ひとりでちゃんとやれるよ。約束する!」
 のび太は胸を張った。
 その言葉を聞いたドラえもんのび太に涙を見せまいと、
「ちょ、ちょっとそのへんを散歩してくる…」と言って去った。


「涙を見せたくなかったんだな。いいやつだなあ」
 ひとりになったのび太は、空き地の土管に腰掛けた。
 そこに寝ぼけて夜中に徘徊するジャイアンが現れ、目を覚ます。
「だれだっ。そこでにやにやしてるのは! なんだのび太か。おれが寝ぼけてるところをよくも見たな。許せねえ!」
 そう叫ぶとジャイアンのび太の胸ぐらを掴んだ
「わっ、ドラ………」
 しかし、のび太はいつもの言葉を飲み込んだ。
「けんかならドラえもんぬきでやろう」
「ほほう…えらいな、おまえ。そうこなくっちゃ」
のび太の思いがけないセリフを聞くとジャイアンは嬉々としてのび太を殴った。

 
 その頃ドラえもんは、のび太の助けを求める声を聞いた気がして心配になり町中を探していた。
先に帰ったと思い家に戻るがのび太の姿はなかった。


 空き地では、一方的な暴力が続いていた。
自分で立つ力がなく倒れこむのび太
「どんなもんだい。二度とおれにさからうな」
 のび太は起きあがり、ジャイアンに言った。
「待て! まだ負けないぞ」
いつもと違う展開に少し戸惑うジャイアン
「なんだおまえ。まだ殴られ足りないのか」
「何を。勝負はこれからだ」
再び殴られるのび太

 
 帰ってこないのび太を家で待つドラえもん
「どこで何してんだ。最後の晩まで人に心配かけて」


のび太を殴り続けるジャイアンは息を切らしている。
「ふう、ふう。これでこりたか。何度やっても同じことだぞ。はあ、はあ、いいかげんにあきらめろ」
 帰ろうとするジャイアンの足にのび太はしがみつく。
「僕だけの力で君に勝たないと……ドラえもんが……安心して……帰れないんだ!」
「知ったことか!」
 再びのび太を殴るジャイアン

 
 のび太は帰ってこない。
「ただごとじゃないよ、こりゃ」ドラえもんは外に飛びだした。

空き地では、最後の決着が着いていた。
 ジャイアンをつねるのび太の手は離れない。
「いてて、やめろってば。悪かったおれの負けだ。許せ」
ジャイアンは走り去った。

 ドラえもんは、くずれ落ちそうなのび太にかけより支える。
のび太ドラえもんにはっきりと言った。
「勝ったよ、ぼく」
「見たろ、ドラえもん。勝ったんだよ。ぼくひとりで。もう安心して帰れるだろドラえもん


 布団に入って寝ているのび太
その寝顔を涙を流しながら見つめるドラえもん


 翌朝、のび太が目を覚ますと、もうドラえもんの姿は無かった。
いつもの毎日が始まる。
「ドラちゃんは帰ったの?」
「うん。」


 独りになった部屋でのび太はつぶやく。
ドラえもん 君が帰ったら部屋ががらんとしちゃったよ。でも……すぐになれると思う。
だから…心配するなよドラえもん。」


「さようなら、ドラえもん 」より